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札幌高等裁判所 昭和50年(ラ)20号 決定

抗告人 河野建二(仮名)

主文

原審判を取消す。

抗告人の名の「建二」を「光昭」と変更することを許可する。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、主文と同旨の裁判を求めるというにあり、その抗告の理由は別紙記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  そこで、審按するに、本件記録中の、抗告人提出にかかる、抗告人の戸籍謄本一通、郵便葉書一一通、封筒一枚、名刺二枚、○○弓道部卒業生住所録一通、原審における抗告人審問の結果、当審における抗告人審尋の結果を総合すれば、次の(一)ないし(三)の各事実が認められる。

(一)  抗告人(昭和二二年一二月二三日生)は、その戸籍上の名は「建二」(「けんじ」と音読)であるが幼少の頃病気がちで身体が弱かつたため、抗告人の両親がこれを心配して、昭和三四年頃(抗告人の一二歳位いの頃)、姓名判断をなす者に鑑定をしてもらつた結果、抗告人の名の「建二」を「光昭」(「みつあき」と音読)に変更する方がよいとの鑑定意見を得たので、右両親は、即刻抗告人の名を「光昭」に変えることを考えて、抗告人にもそのことを云い聞かせて、その頃から抗告人を「光昭」の通名で呼ぶようになり、その頃抗告人が通学中の小学校の先生にも抗告人の名を右のとおり変更することを伝えたので、右先生、抗告人の友人や知人は、その頃から抗告人の名を右通名の「光昭」で呼ぶようになつた。

(二)  抗告人は、その後大学を卒業して昭和四六年に○○火災海上保険株式会社に就職し、じ来同社に勤務しているが、これまでの間、止むを得ず前記戸籍上の名を使用しなければならなかつた公的文書や公的記録以外はすべて前記通名の「光昭」を抗告人の名であると称して使用しており、右会社に就職の際右会社には前記戸籍上の名が抗告人の正式の名である旨の届出はしたものの、右会社の上司から右通名を抗告人の名として使用することの許可を得て、右通名を記載した名刺を印刷して、職務上も、これを使用して自分の名が右通名の「光昭」であると称してきたため、抗告人と私生活上及び職務上交渉のあるほとんどの者は、抗告人の名が右通名の「光昭」であると認識して、抗告人の名を右通名で呼んだり、遅くとも昭和三八年頃から、抗告人あて右通名を記載した手紙を寄こしたりした。なお、これまで、まれに抗告人あて前記戸籍上の名を記載した手紙を寄こした者があつたが、これは、その者が、たまたま抗告人の右通名を知らず、抗告人の前記戸籍上の名が記載されている前記会社の正式な社員名簿を見て寄こしたものにすぎなかつた。

(三)  抗告人は、以上のとおり、昭和三四年頃から今日まで一六年間位いの長年月にわたつて、前記公的文書や公的記録以外はすべて前記「光昭」という名を自分の通名として使用し続けてきたため、現在においては、抗告人を知る者は、右通名が抗告人の名であると認識してこれにつきほとんど疑問を持たない程であり、抗告人自身も、他人から自分の名を前記戸籍上の名の「建二」で呼ばれたり、右戸籍上の名を記載した手紙等をもらつたりすると、自分のことでなく他人ごとのような気がしてよそよそしく感じる程である。それ故、抗告人が戸籍上もその名を前記「建二」から右通名の「光昭」に変更しても、これにより、私的生活上は勿論、社会的ないし公的面においても、格別、面倒なことが起つたり、支障が生じたりすることはない実状である。

そこで、抗告人は、今後も右通名を自分の名として使用することを望み、昭和五〇年四月に結婚することを契機に戸籍上も自分の名を前記「建二」から右通名の「光昭」に変更したく、本件名の変更許可の申立に及んだものである。

二  右認定事実によれば、抗告人は、その動機が姓名判断によるものとはいえ、昭和三四年頃から今日まで一六年間位いの長年月にわたり、止むを得ず戸籍上の名を使用しなければならなかつた公文書や公的記録上において以外はすべて「光昭」という名を抗告人の通名として使用してきたため、現在においては、右通名が抗告人の名として広く社会一般に認識せられておつて、むしろ右通名が社会生活上抗告人を他から識別する役割を果していることが認められる。そうだとすれば、抗告人がその名を前記戸籍上の名の「建二」から右通名の「光昭」に変更することについては、戸籍法一〇七条二項の正当な事由があるものといわなければならないので、抗告人の本件名の変更許可の申立はこれを認容するのが相当である。

三  よつて、抗告人の本件名の変更許可の申立を却下した原審判は不当であるから、家事審判法七条、非訟事件手続法二五条、民事訴訟法四一四条、三八六条に基づいて、原審判を取消して、抗告人の本件名の変更許可の申立を認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮崎富哉 裁判官 長西英三 山崎末記)

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